2007~2009年度科学研究費助成調査報告書(課題番号:20520561)
幕末開港期の欧米毛皮会社資料の調査:エコシステムと海獣毛皮猟
大阪商業大学 総合経営学部 教授 下山 晃
はじめに
この研究「幕末開港期の欧米毛皮会社資料の調査:エコシステムと海獣毛皮猟」は、申請者の今までの30年余りにわたる毛皮史研究の蓄積を素地としたものである。申請した研究機関は3年間(平成20年から平成22年)。その間、助成によって2008年9月10日から10月2日にかけて、およそ一ヵ月の期間、本研究のためにカナダで毛皮史関連史料の調査・収集を行なうことができたため、以下にその成果の概要を報告しておきたい。なお、この研究をすすめるにあたっては、生態保全学の立場から長く北太平洋の海域調査を続けて来られた京都大学霊長類研究所の和田一雄氏に研究協力者として多くの援助を得たことを記し、心からの感謝の意を表しておきたい。調査内容の不備や不足の責任は、当然のことながら申請者、報告者の下山だけが負うものである。
今回の調査および国立民族学博物館での3年余りの共同研究(池谷和信氏をリーダーとした「地球環境史の構築に関する人類学的研究」)に基づいて、既に報告者は「ゴースト・ネイチャー:北米における毛皮フロンティアの展開とエコクライシス」と題した論稿(池谷和信編『地球環境史からの問い』岩波書店、2009年10月所収)を公表している。その論稿では、未だに研究がほとんどすすんでいないヤマネコ Bobcatの民族学的な重要性とその絶滅の経緯、そして日本の幕末開港期にピークをむかえていたラッコ猟の実態に分析の焦点を当て、それらを先住民の生活生態圏の崩壊との関連の中に歴史的に位置づける視点を提示した。この論稿での考察を引き継いで、調査研究の協力者として貴重な助言と国内外資料の調査に多くのご協力をいただいた和田一雄氏とは共著出版の予定もあるため、その新著もいずれご参照をいただければと思っている。新著の仮題は『北半球における毛皮フロンティアの展開とエコシステム』である。
上記「ゴースト・ネイチャー」や旧著『毛皮と皮革の文明史』(ミネルヴァ書房、2005年)など一連の毛皮史関連の研究で既に明らかにしてきた通り、北米・シベリア・北太平洋に同時進行ないしは継起的な形で拡大した広域な近代毛皮フロンティア(毛皮の世界フロンティア)の展開は、実は幕末開港期の日本の歴史展開に対しても、通常考えられている以上の大きなインパクトをもたらした社会経済的要因であった。それは明治の20年代までに日本国内の多様で豊かな生態系を根底から壊滅させる最大の要因でもあり、また「ウサギ飼育熱」や「西洋ごしらえの衣装」といった形で日本の風俗史や庶民の日常の生活変化・意識の転換に大きな変化をもたらす文化史的な要因ともなった。
広範囲の長年にわたる余りもの乱獲の連鎖によって、毛皮は地域産業や国家の貿易構成の中で19世紀半ばまでには比重を減ずることになるが、毛皮獣の絶滅や先住民の生活圏の壊滅など毛皮交易史に関わる諸問題は、今日のエコクライシスが内包する数々のグローバルな問題の、最も典型的な先例であったと考えることが必要である。毛皮交易史の問題は、単に一国の対外関係の問題ばかりでなく、生活圏の維持再生や社会形成の基層的な部分、すなわち本来のヒトと自然との関係のあり方やヒトとヒトとの接触のあり方の根源的な変容の問題に関わっていることが見落とされてはならないのである。
本研究は、毛皮交易の展開が、狩猟圏に棲息したビーヴァーやテン、リス、ラッコ、ヤマネコなど毛皮獣の絶滅を呼び起こしたばかりでなく、その狩猟圏に先住した幾多の民族の歴史と文化を根底から崩壊させるに至った史実を分析の主軸に置き、毛皮猟と先住民奴隷化問題や強制貢納の歴史を生活生態圏の崩壊の枠の中に捉えることを展望するための準備作業である。そうした観点を固めるため、本研究は日本の毛皮関連の史料に出来るだけ詳細な配慮を心がけ、またハドソン湾会社史料を主として多数のカナダ、アメリカ、イギリスの英文資料、文献を調査した。それに加えて、不十分は承知の上でロシア、中国の文献、資料にも目を配り、北太平洋一円における毛皮史と生態史の変貌をこれまでの研究には無い多角的な視線から照射することを企図した。長期、広範囲にわたる毛皮交易の歴史を分析、検討するには、わずか3年間の本研究が網羅的にすべての資料を論じることはもとより望むべくはなく、たとえば史上最大規模、史上最長命の株式会社であったハドソン湾会社史料の目録調査だけでおそらくは数年の調査機関さえ必要であろうことは重々承知している。しかしそれを承知した上でも、生態系の問題を考えるにあたっては、本研究のような広い視点からの予備的な展望はどうしても必要なのである。
1. 助成申請内容
調査を行うに当たって日本学術振興会に申請した研究計画内容は、以下の通りである。
研究目的
1.研究の学術的背景
アメリカ史・アメリカ経済史研究の流れを追うと、グローバル化の進展やインターネットの普及、ソ連崩壊、環境問題の浮上などによって、 特に1990年代以降、主に相互に密接に関連した次の三点において研究の大きな変化と深化のみられたことがわかる。
第一は、今まで比較的手薄であった南部史、西部史の歴史研究が進展し、奴隷制の問題や先住民とフロンティア移民の問題が地域ごとに詳細に知られはじめたことである。地域史研究の大きな進展がみられる訳で、各州別の学術的な歴史雑誌の参照も容易となった。
第二は、州や地域を越えて、グローバルな規模や生態的なレベルの枠組みの中で問題が扱われることも多くなった点である。世界システム論の提唱や北米・南米を「アメリカス」として分析する視点の登場、各地の大学での総合科目としての環境史講座の開設などに、そうした傾向が顕著に現れている。
第三は上記二点の成果を集約した講座シリーズの刊行やレファランス類の公刊が充実し、しかもそうした業績をリアルタイムで活用できる情報基盤が飛躍的に整備されたため、共同研究や学際研究、比較研究の比重が一層重要となってきたことである。
従来、アメリカの奴隷制度や奴隷制度と関連した商品の経済史・文化史を研究してきた申請者は、現在(2008年)国立民族学博物館において学際的な研究プロジェクト( 「地球環境史の構築に関する人類学的研究」)に参加し、奴隷制プランテーションやアメリカの主要な商品・企業活動と環境の関連をテーマとした研究をすすめているが、本申請はその研究とも関わって、近代奴隷制や毛皮交易システムの広がりと幕末・開港期の日本との関連を欧米毛皮会社の活動経緯から具体的に分析しようとするものである。
既に1988年、申請者は英文論稿 “Fur and Hat Trade in Commercial Revolution in Relation to Indian Slavery in the Rise and Expansion of the Modern World System.”(School of Economics, University of Osaka Prefecture, Discussion Paper Series, No.23 )を執筆し、それに先立って第55回社会経済史学会全国大会において「商業革命期の毛皮交易」の報告発表(1986年)を行なっていた。従って、毛皮史研究の蓄積は30年余りとなる。毛皮と帽子に着目したのは、それらが植民期のアメリカの産業で最も早くから最重要の取引品目となって植民拠点の形成や先住民及び移民社会の変容に決定的な影響を与えていたからであり、そうでありながら、我が国ではほとんど本格的な研究がなされていなかったためである。理論偏重の傾向があり、生活史的、社会史的、文化史的な分析が希薄であったということもある。
上記論稿や報告以来、申請者は毛皮について3冊の共著と7本の論文で論究し、2005年1月にはミネルヴァ書房より『毛皮と皮革の文明史』を上梓した。同著において、申請者が明らかにしたのは、原初以来のケモノ(毛皮・皮革)と人類文明の社会的・文化的・生態的な関わりの決定的な重要性であり、特に近代以降における世界商品としての毛皮の時代変化への関わりの重要度の大きさである。毛皮は国境文化圏を越えた「世界フロンティア」の中で、世界各地の歴史や文化、人種間関係、生態系や制度、貿易体系、動物観の変遷などに大きな影響を与えつづけた最重要級の商品であった。
同著出版後、申請者は弘文堂『歴史学事典』の「毛皮」と「皮鞣し」の項目の執筆を担当し、民族学博物館の共同研究への参加を依頼されたが、その過程で同著でも考察した近代毛皮交易の生態史的問題や日本・アジアの社会変化との関連の問題が一層大きな関心事となっていった。民族学博物館では、主にアメリカの毛皮フロンティアや奴隷制プランテーションと環境史の関連についての研究をすすめており、本研究はそのフロンティア展開の流れの中に幕末開港期の日本の貿易史と生態史の変遷を位置づける。既に毛皮獣研究に豊富な蓄積のある生態保全の研究者(京都大学霊長類研究所・和田一雄氏)を研究協力者に加え、和田氏には海外の研究機関に所属する研究者( Russian Academy of Sciences 所属 N.N.Pavlov 氏、Kamchatka Institute of Ecology and Nature Management 所属 A.Burdin 氏)との連絡を依頼して、日本側の資料との生態史的な関連づけを担当していただく。日本国内および北米毛皮圏と北太平洋、そしてシベリアの毛皮圏での実地調査資料も活用することで、今までアメリカ史や日本史の歴史研究だけではフォロー出来なかった問題が浮かび上がることになる。
2.研究期間内に何をどこまで明らかにするか
本研究では、日本・アジア向け毛皮交易の拠点であったと考えられているアストリアやシトカなど北太平洋地域における欧米毛皮会社の海獣毛皮猟の進展過程を分析すると共に、歴史的実証研究の及んでいないアメリカ、ロシア、カナダ領内の北太平洋地域の毛皮交易拠点の分布・形成を検証する。時系列的なその分布・形成と、毛皮獣枯渇に関する多国間の規制や条約、紛争、自然保護協約の推移などを結び合わせて考察するのが第一の課題である。
それと共に、第二には「研究計画・方法」に挙げた日本国内の各種資料館・図書館で日本側の関連資料を収集し、幕末開港期に日本に入港したスクーナー船の国籍、出港先、隻数、関連企業名、毛皮取引量、価格、政策、生態系への影響等を調査、日本の開国と生態系に与えた欧米の毛皮会社の活動の意義・影響についての考察を行う。具体的な毛皮会社の活動の歴史過程を辿りながら、北太平洋一円の毛皮フロンティアの形成と展開が、日本の開国のみならず、各地の先住民社会の破壊や毛皮獣生態系の破壊などグローバルな今日的な問題にも結びついていたことを読み解く点に比重をおく研究である。
3.本研究の学術的特色、独自性と予想される結果と意義
本研究は、近代商品文化史の研究を専門とする申請者が、生態学の観点から毛皮猟についのて著作もある和田一雄氏と海外の研究者の協力を得てすすめる学際的・国際的研究である。申請者の前著を目に留めた和田氏からの呼びかけで発案された研究であるが、前著公刊後に申請者自身が必要と考えていた日米関係史の商品史的な観点からの読み直しと、商品史・経済史と環境史の融合の重要性を強く意識したプランである。
ロシアではソ連崩壊後、研究の自由度が格段に高まったこともあって、漸く最近になってロシア・アメリカ会社がシベリアや北太平洋、そして北米の先住民に課した過酷な毛皮の貢納(ヤサク)の実体を詳しく論じた書物が著されている。またアメリカやカナダでも、毛皮交易圏において先住インディアンに対する奴隷化が広範な地域に及んでいたことを立証した本格的研究が漸く現れはじめている。 (そのロシア、北米での凄惨な毛皮フロンティアの展開は、近世・近代日本の変容にも直接、大きく影響したものである。) 本研究によって、海外の毛皮史の展開は開港=文明開化の基層部で、ヒトとケモノが生息の基盤としたエコシステム崩壊の歴史を積み上げていた史実が明らかになる。これは実は、多くの資源や商品が直面している今日的なグローバルな問題の先例を解明する研究ともなるのである。
2.主な日程と調査機関・施設
研究計画・方法
1.研究計画・方法の要旨
期間は3年とし、主に夏期及び冬期の休暇期間を活用して、以下の各地の資料館や博物館、大学等関連研究施設で資料の収集と調査を行う。初年度はウィニペグとオタワでハドソン湾会社等の毛皮会社関連の文書とカナダの国立文書館の一次資料を収集、北米北西部地域での毛皮交易ポスト形成の歴史をまとめると共に、国内の関連施設で日本側の資料を調査する。2年目はアメリカとロシアの毛皮会社の北太平洋進出のデータを分析、3年目にそれらをまとめて著作の原稿執筆を行う。
2.平成20年度の計画と役割分担、経費
- カナダ:
- ウィニペグ でハドソン湾会社の史料館を調査(12日間)、オタワの国立文書館 National Archives of Canada で毛皮会社とIndian Affairs 関連の史料収集。 (12日間)
- 日 本:
- 外務省外交資料館(5日間)、横浜開港資料館(3日間)、函館市立図書館(4日間)、高田屋嘉平衛資料館(函館、3日間)、国立国会図書館(5日間)で幕末開港期の日本側資料を調査、分析。
カナダでの史料調査は調査施設に予め連絡を取ったうえ下山が行い、ウィニペグ、オタワ近隣の Trading Post の現地調査と聞き取りなども併せて行う。日本の各資料館は主に和田が担当し、適宜ロシア、アメリカ側の資料とのつき合わせを行う。
和田には既にコマンドルスキー諸島や日本周辺の資源保護と毛皮会社の活動を分析した業績があり、ロシアに関してハバロフスク、イルクーツク、ペトロパブロフスク・カムチャッキーなどでの実地調査をふまえたデータの活用も予定している。Pavlov、Burdin 両氏にはいずれもシベリア、カムチャッカから北太平洋諸島(北海道を含む)の資源保護や生態保護の問題を歴史的視野の中で論じた業績があり、本研究には欠かせないアドバイザーである。このロシア毛皮猟関連のデータをカナダからアメリカ北西岸に至る毛皮圏の広がりの中で歴史的に位置づけてゆくのが初年度及び2年目の研究の主な課題となる。
海外での史料収集と、交通費・宿泊費が割高な休暇期の国内調査が必要なため、初年度はカナダへの渡航費、その他旅費、内外の宿泊費でおよそ190万円の経費が必要と見込まれる。史料・文献収集費は24万円、謝礼は1日8000円で年間24日間協力に専念してもらうものと考えて、一人あたり19万円を計上している。調査用モバイルPC15万円を併せて、初年度経費総計はおよそ286万円となる。
3.平成21年度の計画と役割分担、経費
20年度に収集した史料を翻訳、分析すると共に、夏期休暇中に下山が従来の内外の毛皮史研究文献の日本・アジア関連の分析を吟味する。 また、アメリカとカナダの太平洋北東一帯における毛皮交易拠点の歴史地図と歴史年表を作成し、ロシア・アメリカ会社の地図・年表については Pavlov、Burdin 両氏の協力を得ながら下山と和田が共同で作成する。 (ハドソン湾会社と北西会社を代表としたカナダについては、既にほぼ網羅的に交易ポストをリストアップした歴史地図を作成し終えている。) 海外の協力者との情報交換は、電子メールと郵便を利用、和田とは夏期休暇開始時と冬期休暇開始期に直接打ち合わせを行う。
主な経費は謝礼で前年同様57万円(19万円×3)、打ち合わせの旅費・宿泊費は夏期、 冬期とも三日間、計6日間で14万円、文献費・コピー代9万円で本年度の総計概算は80万円となる。
4.平成22年度の計画と役割分担、経費
夏期休暇中に前年度までの研究成果を整理し、和田が海獣毛皮猟と生態保全に関わるデータから幕末開港期の日本の歴史情況を解析、下山は対象とした地域の先住民問題と環境問題を軸に置いて欧米毛皮会社の歴史的なインパクトを検証する。和田の調査結果と合わせた考察をまず下山が整理し、その後最終的総括を共同で行なう。研究の成果は、ミネルヴァ書房より共著として出版する予定である。年末までに草稿を書き上げ、成果の要旨をホームページに公開してインターネットで参照可能とする。
およその経費は和田への謝礼が前年までと同様19万円、他2名への研究者へのものが年間12日分と考えて二人で約20万円、打ち合わせの旅費・宿泊費は計6日間で14万円、文献費3万円、冊子印刷費30万円で、経費総計概算は89万円である。
3. 収集・調査資料リスト
今回の研究計画を実施するに当たっての準備状況等
① 本研究に関わる研究施設:2005年に出版した『毛皮と皮革の文明史』で既にアウトラインを把握した毛皮会社の史料の内、特に日本、アジアの海獣生態史関連及び先住民労働関係のものを調査・収集する。そのため、オタワの Manitoba Provincial Archives (Hudson's Bay Company Archives 等 多数毛皮会社の文書を所蔵)及び National Archives of Canada, Fur Institute Of Canada, Kam- chatka Institute of Ecology and Nature Managemen Russian Academy of Sciences, の資料を利用する。現在共同研究員である国立民族学博物及び外務省外交資料館、函館市立図書館、高田屋嘉平衛資料館では、主に北太平洋諸島の先住民やアイヌとロシア、イギリス、アメリカの毛皮会社の接触に関わる資料と毛皮スクーナー船関連資料を調査する。その他関連資料は大阪商業大学、国立国会図書館、横浜開港資料館、京都大学霊長類研究所にて調査を行なう。民博では主に内陸毛皮猟の資料について研究しているため、本研究では海獣毛皮猟関連の資料を中心に調査したい。
① 連絡調査状況:主に電子メールにて相互に連絡。研究協力者から過去5年間の業績を入手済み。
③ 研究成果発信方法:研究報告書を冊子として公開、要旨をホームページに掲載する。(ミネルヴァ)
4. 調査成果の概要と今後の課題
関連研究業績
2007年以降
(1)下山晃著、「木村和男著『北太平洋の「発見」:毛皮交易とアメリカ太平洋岸の分割』」書評、『社会経済史学』、第73巻第6号、2007年に掲載予定、査読あり
(2)下山晃著、「悪魔の染料:インディゴが変えた世界」、『農業史研究』、第41号、2007年、28-41頁、査読あり
(3)下山晃著、「毛皮」、加藤友康責任編集、弘文堂『歴史学事典』、 第14巻、2007年、167-168頁
(4)下山晃著、「皮なめし」、同上書、114-115頁
2006年
下山晃著、「商品連鎖」、川北稔責任編集、弘文堂『歴史学事典』、 第13巻、2006年、167-168頁
2005年
下山晃著、『毛皮と皮革の文明史』、ミネルヴァ書房、2005年、536頁
研究経費の妥当性・必要性
本研究は、幕末開港期の日本をめぐる北方毛皮圏の歴史情況を見定めながら、乱獲と略奪が連鎖的な進展をたどった広範なその毛皮圏での競争的・営利的毛皮会社の活動を、一次史料と従来の代表的関連文献、そして生態保全研究者の業績を統合して分析しようとするものである。
本研究の視点からは、今日的にも重要課題といえる企業活動と異文化社会・異文化環境の交接・破壊の問題が、幕末開港期の諸列強の国家的対外政策の動向によってだけではなく、第一にはむしろ国境や地域を越えた毛皮フロンティアのグローバルな商品史的展開の中で決定づけられてきた史実がみえてくる。環境問題は「もっとも重大な問題」(養老孟司)であるが、生態資源の枯渇やその生態系に暮らした先住民社会の崩壊の問題は、目前の経済的利得の陰に押しやられて、大方は回復不能な危機を過ぎてから認識され議論されるのが常である。そうした迂闊さからの方向転換をはかるには、国境を越えた共同研究と、旧来の専門学問領域を相互に跨ぎ統合した視線の獲得が是非とも必要である。本研究は、そうした認識を前提に、史上最長命の株式会社として一時は史上最大の領地を保有したハドソン湾会社と、シベリアからアラスカまでをも毛皮源とした文化・自然環境の総体を意味している。そのため、申請した内外調査機関での資料収集と、エコロジーや生態保護の専門家との協力とが、絶対に欠かせないのである。史料調査費と研究協力者への3年間の謝礼が最低限、何としても必要である点をご理解願えればと思う。 尚、モバイルPCは手持ちが無く、現地での資料整理に必要なため、申請に加えたものである。
